大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1466号 判決

被控訴人が係争受任事務を処理するに際し、控訴人の当該事件における相手方であつた田中工業株式会社から金五〇万円を受け取り、現にこれを保管していることは、当事者間に争いがない。被控訴人は、右金員の引渡しを求めようとする控訴人の予備的請求に応じがたい理由として、法律扶助協会・控訴人及び被控訴人の三者間契約の効果として、被控訴人がこれを直接控訴人に引き渡すことなく、同協会に引き渡す義務があるからと主張する。なるほど、前示乙第八号証によれば、控訴人は、右協会による法律扶助を受けるに当り、右乙第八号証の契約に定めるもののほか、法律扶助取扱規則に従うことを承諾していることが認められ、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、右協会は、法律扶助事件を取り扱う弁護士に対する事件取扱上の一般的要請として、弁護士が事件の相手方から受け取る金銭は、これを直接依頼者に引き渡すことなく、協会に引き渡すべきことを求めていることが認められるから、被控訴人もまた、協会の右要請を受諾していたものと認めることができる。しかし、右乙第一〇号証は、その名を「法律扶助事件受任準則」と題するが、その全文の定めが殆んど協会と弁護士との間の関係に関するものである。ただ本件で間題になつている受任者が委任者(事件依頼者)のために受け取つた金銭の取扱いに関する部分は、委任者の利益に関するから、本来委任者の同意のない限り、有効とならない。しかるに、この点の準則五の定めは、委任者の同意を徴するという形でなしに、むしろ協会が立替金等を回収するための便宜ないし必要性の立場に出でて、専ら協会から弁護士に対する注意ないしその間の申合せという形で定められている(したがつて、この準則にいう「受任」の語は、法律扶助事件を委任者から「受任」して事件を処理するについての準則ということでなしに、法律扶助事件を協会から紹介されて、協会のために「受任」するについての準則という趣旨に用いられているのではないかとの疑いなしとしない。)。また、この準則は、本来法律扶助取扱規則に対する施行細則的のものたるべきかと思われるが、その制定の根拠は、右規則及び準則のいずれからも明らかでない。なお、規則によれば、依頼者は、協会の立替金等を協会に支払うべきものとし、受任弁護士は、依頼者からこれを取立てる義務があるとされ、そのことの前提として、法律扶助事件を取扱う弁護士は、協会に対して右の点に関する範囲内で委任関係に立つことが定められているようであるが、この定めと前示準則五とは、必ずしも矛盾するところがないとはいえないようである。さらに協会が準則五によつて受任弁護士から引渡しを受くべき金銭について、依頼者が協会に対しいかなる権利を有するかの点、法律扶助取扱規則その他に何らの定めのないことも、依頼者にとつて重大である。以上に指摘したところは、扶助事件受理に際し用いられている契約書の条項、法律扶助取扱規則及び法律扶助事件受任準則の約定ないし規定の不備に座するもののようである。そうして最後に、前示準則の定めが、果して控訴人による法律扶助の申立てないし控訴人と被控訴人との間の委任契約締結に際し控訴人をして了知させる機会が与えられたか否かの点については、被控訴人は、これを積極とするようであるが、上来説明したところからも、本件における証拠からもこれを肯定することができない。

以上に説明したところによつて、被控訴人が援用する法律扶助事件受任準則による法律扶助協会に対する被控訴人の義務のいかんは、被控訴人からこれを控訴人に対抗するに由なく、これによつては、被控訴人が控訴人との間の委任事務を処理するに当つて受け取つた金銭を委任者に引き渡すことを要する旨の民法上の義務を免かれることができない。

(中西 松永 長利)

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